Episode.02小島 聖 女優
30代で大自然に魅せられ、毎年のようにネパールの山岳地帯へ通い、マッターホルンやモンブランの登頂、全長340キロものジョン・ミューア・トレイルを20日間で踏破するなどの旅を続けてきた女優の小島聖さん。子どもが生まれて3年が経った今でも、家族とともに自然へと出かける旅は続けながらも、子育てを中心とした日々の暮らしを充実させることにウエイトを置いている。そんな小島さんとは10年来の友人であり、長野県北杜市でパーマカルチャー(持続可能な環境を生みだす生活システム)を実践しながら、各地で日本ならではのパーマカルチャーデザインを提案する四井真治さんを訪ね、今改めて生活における“持続可能性”という言葉の意味について語り合いました。
小島 聖(以下、小島):ここへ初めて来たのは、もう10年以上も前になるんですね。
四井 真治(以下、四井):お互いに共通の知り合いがいて、うちの畑で収穫した食材で料理をするという会を開いたんですよね。あの頃、聖さんは海外の山にも登りに行っているという話をしていましたよね。
小島:そう、ネパールの自然を歩く旅へ毎年のように出かけていて、普段の生活ではマクロビオティックを実践していた頃でした。だからなのか、四井さん一家のこうした暮らしぶりの小さなこと一つひとつがすごく新鮮に映って。当時から四井さんのスタンスは、いわゆるヒッピーのように、世俗的なものすべてを拒絶する感じではなくて、都会に暮らす私にも想像がしやすい心地よさがあったんです。だからそれ以来、たまに深呼吸をしに遊びにくるようになって。ここ数年は、奥さまと毎年お味噌づくりをさせてもらっているんですよね。
四井:聖さんのお子さんも今年で3歳になって、一緒に来ると楽しそうに遊んでいますよね。
小島:四井さんの2人の息子さんたちも、うちの娘と比べたらもうすっかりお兄ちゃんになって。見ていると四井さんがしていることに何でも興味を持って手伝うんだけど、ゲームに夢中になる時間もあったりして。その両面があっていいなと思うんです。
四井:ゲームの時間はもったいないなとは思うけどね……(笑)。
小島:親としてはそう思っているんだ(笑)。
四井:ゲームで満足しちゃうと考えなくなってしまうし、あの時間でもっとクリエイティブなことができるのにって。でも、あれを知らないでこういう暮らしをするのと、両方知っている上でこういう暮らしをするのとでは、全然違うと思うから。ある程度は許しているんですけどね。
小島:私たちの世代って子どもの頃は携帯電話もまだなかったし、今ほどオートマチックな生活ではなかったじゃないですか。だから、意識しなくても自然と子どもにも昭和的というか、少し手間のかかることを教えているんですけど、今の子どもたちはスマートフォンがあたり前の世代だから、手間のかかることや自然に触れることが、より大切になっていくんでしょうね。それを強要するつもりはないんだけど、体験しているかしていないかで、その先が全然違うと思うんです。私自身も、山や自然に触れる旅をしていなかったら今の自分はなかったと思うから。
四井:たとえば今は、こういう暮らしでも何かが壊れて修理の仕方がわからないという時、ネットで検索すればいくらでもその方法を知ることができるんだけど、実際それを頼りにやってみると、やっぱりテキストでは伝えきれないことがたくさんあるんだってことに気づくんですよ。繰り返しやるうちに、指の動きひとつでこんなにうまくできるんだ……とかね。テキスト化できないことの方が重要だったりする。この畑にしても、コンパニオンプランツといって、畝ごとに異なる科の種を植えていくことで病気が防げたり、植物同士が助け合う関係をつくりだすようにしているんだけど、これも土地によって土も違えば気候も違うから、メソッド通りにしてもうまくいかないことだってある。結局は、実際に土に触れながら、その土地なり、その人のライフスタイルに合った方法を見つけていくしかないんですよね。
小島:毎年同じようにやってきたことが、突然うまくいかなくなることもあるんですか?
四井:ありますね。それまでとはまったく違うことを試したらあっさりとうまくいくこともあるし、何をしてもダメなこともある。その方法が正しいか正しくないかと、一概に言うことはできない。
小島:そうした気づきは、畑に限らずいろんなところに生かされるような気がします。
四井:そう、農的暮らしにすべての哲学が詰まっていると言ってもいいくらい。田舎暮らしは「のんびり」というイメージがあると思うけど、そんなことはない。都会と変わらないくらい刺激的ですよ。近代化というのは、暮らしに必要なさまざまな物事を分業化させて、そこに対価をつけて社会を形作ってきたわけだけど、それによって本来僕らに備わっていた生きるための能力も手放してきてしまった。こういう自然に近い暮らしというのは、その手放した能力を取り戻して、総合力をつけ知力も体力も維持していくということでもあるんですよね。
小島:最近は、たとえば椅子が壊れたりするとここへ持ってきて修理をしてもらうんだけど、四井さんの慣れた手つきを見ていると、本当にそうしたことが生活の一部なんだなと思うんです。これを私が東京の家でやろうと思ったら、やっぱり簡単ではなくなってしまう。
四井:僕も始めのうちは、できないことだらけでしたよ。やる前は、みんな難しいと感じるんだけど、やっているうちに自分なりの方法が見つかっていくから。
小島:そうかもしれない。山登りも、周りから「大変でしょ」と言われるんだけど、やってしまえば何てことはないし、楽しいんですよね。
四井:こういう暮らしは、だいたい2週間に1回くらいは何かが壊れるんですよ(笑)。いつも何かを修理しているから、うまくなっていく。本当の意味で持続可能な暮らしを考えれば、“修理”は欠かせないことなんですよね。それに、修理をするには、それがどんな仕組みでつくられているのかを理解しないといけないから。今日、僕らはザ・ノース・フェイスのダウンジャケットを着ているけど、この羽毛という素材も、もとを辿ると水鳥の羽に備わった冷たい水から体温を守るための機能を人間が発見したのが始まりなんですよね。ジャケットの中では、外気や体温によって羽が閉じたり開いたりして湿度調節をしてくれる優れた性質がある上に、うまく再利用しながら使えば100年以上もつ素材で、最終的には肥料として土に還すことができる。それに、日本には古くから、ボリュームをなくした布団の中綿をほぐしながら長く使う「布団の打ち直し」という文化があって、羽毛が主流となった今でも、使い古した羽毛を洗浄してリフォームすることを、その名残で打ち直しと呼ぶんです。そうした事も、今は知らない人が多いでしょう。知らなければ、中はまだ使えるのにゴミになって、文化も途絶えてしまう。この背景を知っていると知らないとでは、物に対して抱く感情も変わってくると思うんですよね。
小島:私自身、今はまだ買うものすべてを環境にいいからという理由だけでは選べていないんです。服は特に、好きなデザインで着心地がよくないと、長く着続けることができないから。でも、こうしたリサイクル・ダウンの背景を知った上で好きなデザインなら、それを選びたい。さらに愛着が増すと思います。
四井:それに、アウトドアウエアって丈夫にできているから、なかなか壊れないですよね。
小島:そうなんです。山へ行くとみんな素敵なウエアを着ているから、つい欲しくなって次々買ってしまうような時期もありましたけど、実際には買い換えなくていいくらいすごく長持ちするんですよね。それに、物が増えていくと、自分がどんどん太っていくというか……。体重という意味ではなくて。
四井:わかります、重たいというかお腹いっぱいになりますよね。
小島:許容がいっぱいになって、全部いらない!ってなってしまう。そうした時期を経て、ようやく必要なものがあればそれでいいと思えるようになってきました。それでもまだ、物はたくさん持っているんだけど。
小島:四井さんのような自然に近い暮らしの楽しさを垣間みながらも、やっぱり私は東京が好きだし、仕事や友人、今の生活環境にあるいろんな関係性を思うと踏み切れないところがあって……。四井さんがここでの暮らしの先に目標としていることはあるんですか?
四井:僕自身は、学生の頃から森づくりや農業、土について勉強してきて、パーマカルチャーに出合ったんだけど、やっぱりさっき話したテキスト化できないようなことも含め、実際にここで暮らしてみてわかったことがたくさんあったんですよね。この生活環境の中に、できるだけたくさんの生き物が住めるように工夫するというのがパーマカルチャーの基本なんだけど、生き物の循環の仕組みに僕らが合わせていくことで、暮せば暮らすほど生き物が増えていくようになる。人間の暮らし方をリデザインすれば、この地球での人間の存在意義が見出せるんだということを、ここでの暮らしを通して伝えていきたいと思っていて。
小島:壮大ですね。でも、毎日積み重ねていけば、そんなに大変なことじゃないのかな。
四井:大変じゃないよ。聖さんのように、ひとつの物を大切に長く使うというような小さなことの集まりで暮らしは成り立っているわけだから。でも、いずれにせよ気候変動による温暖化の影響をみても、これまでのようなライフスタイルを続けていたら未来はないというのが明白になってきたでしょう。地球の歴史の中では、過去に5回生物の大絶滅があったんだけど、今はその過去の大絶滅の時に生物が減っていったスピードの100倍もの速さで減っていっているというデータがでている。僕が生まれた1970年から今までで、生物の数が半分絶滅しているんですよ。
小島:そう聞くと、ものすごいスピードなのがわかりますね……。
四井:それでも、僕はまだ絶望的ではないと思っているんです。生きものの再生して環境を改善していく力の凄さを感じているし、僕らのように、今ほど便利ではなかった時代を知っている世代がまだいて、このダウンジャケットのように持続可能なものづくりにシフトするブランドも増えてきている。たとえば、僕と聖さんのように田舎と都会を大きなコミュニティと捉えて補い合うような関係性にも、今の時代にあった持続可能な糸口を見出せるかもしれない。今こそ、皆で知恵を絞って持続可能な社会をつくっていく時だと思います。
Profile小島 聖1976年、東京都生まれ。1989年に女優デビュー。1999年、映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、感性豊かな表現で見ている人を魅了する。コンスタントに映像作品に出演する一方、話題の演出家の舞台にも多く出演。2018年には、プライベートで国内外さまざまなアウトドアフィールドを旅してきた中での食の記憶を綴った著書『野生のベリージャム』を出版。2020年より、画家・平松麻ともにオリジナルの紙芝居制作と朗読を行う「おもいつきの声と色」をスタートさせるなど、幅広く活動している。
四井 真治1971年、福岡県生まれ。信州大学農学部森林科学科、農学研究科修士課程にて緑化工学を学ぶ。緑化会社にて営業・研究職に従事。その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務とした「ソイルデザイン」を立ち上げ、愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。2007年に長野県高遠町から山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”独自のパーマカルチャーデザインを実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動している。
< Previous Storyeri / ヴィンテージショップ〈DEPT〉オーナーHim Down ParkaND92031¥68,200- ( in tax )
Fablic:〈表地〉30D GORE-TEX INFINIUM™WINDSTOPPER® Insulated Shell (2 層)(表:ナイロン 100%、裏:ePTFE)〈中わた〉GreenRecycled CLEANDOWN®(ダウン 80%、フェザー 20%)〈裏地〉PERTEX® Quantum ECO(ポリエステル 100%)
Size:XS、S、M、L、XL
マイナス 70℃にもなる極地での活動を可能にするThe North Faceを代表するエクスペディション向けダウンウェアの 1 つであり、1994 年の登場後も進化し続けている Himalayan Parka。1994 年のオリジナルデザインをベースにしつつ、現代のテクノロジーでアップデート。表地には高い防風性を持つ 30D GORE-TEX INFINIUMTM WINDSTOPPER Rip Stop Insulated Shell を採用。撥水材には環境への影響に懸念もあるフッ素化合物を含まない PFCを使用しています。中綿には環境に配慮したリサイクルダウンを使用。高度な洗浄技術により、汚れやホコリを徹底的に除去したクリーンなダウンが高い保湿性を確保します。当時の仕様にはなかったデタッチャブルフードにすることで、より幅広い着こなしを楽しむことができるウェアです。
Buy