from
YAKUSHIMA
山を旅してみたい。
憧れが不安を追い越したら、
心と体が自然と動いていた。
飛行機に乗って、南へ。
屋久島で過ごした、小さな冒険の日々。
DAY1
朝一番の便で、屋久島に着きました。
鹿児島で乗り換えたプロペラ機の窓から
煙を上げる桜島が見えて、
7年前、仲間と旅したときにも
歓声を上げたことを思い出しました。
こちらはもう夏のような陽射し。
みんなTシャツに短パン姿です。
空港近くの喫茶店でガイドさんと落ちあって、
どこへ行こうか、地図を見ながら相談しています。
こんなに長く、ひとりで山を旅するのは初めてで、
少し緊張しているし、不安です。
でも、飛行機の中で読んだ本に
戦後しばらくした頃に8ヶ月もの間、ひとりで
ヨーロッパアルプスを旅した女性の日記があって、
なんだか勇気をもらいました。
猫たちは元気ですか?
すでに顔が見たくて、恋しいです。
DAY2
朝、雨の音で目が覚めました。
「屋久島は1年で365日雨が降る」。
そんな話を聞いたことがあったけれど、
意外と本当なのかもしれません。
でも屋久島は大きな島なので、
たとえ東側が雨でも、西側は晴れということが
よくあるのだそうです。
実際、30分ほど車を走らせて川に行くと
先ほどまでの雨が嘘のように晴れていて、
気持ちのいい水遊びができました。
紺と緑を混ぜたような、美しい川の色。
こんな美しいインクで手紙を書けたら
素敵だったろうな。
屋久島には、そんな美しい川が無数にあって、
その中のいくつかは歩いて遡れるそうです。
川から山へ、水の旅を辿る沢登り。
今度来る時は、それをやってみましょう。
明日は、いよいよ山に登ります。
晴れることを祈っていてください。
DAY3
登山口に着いたとき、あたりは真っ暗でした。
夜から朝へと移り変わる時間は
「山が目覚める」という言葉がぴったりで、
ざざ、と風が吹いたかと思うと、
遠くから鳥たちの澄んだ声が聞こえてきて、
それが合図かのように太陽が昇ってきました。
7年前、仲間と一緒にこの山を登ったとき
私はほとんど山を歩いたことがありませんでした。
テントやら何やら、ほとんどの荷物を担いでもらい
前を行く人の背中とかかとだけを見て
一心不乱に歩き続けたことを覚えています。
自分が先頭に立って山を歩くと
これまでとは全く違う風景が見えるのですね。
どこに足を置くか、どんなペースで歩くのか。
考えることがたくさんあって、少し疲れたけれど
山を歩くことが、こんなに楽しいなんて。
たくさん持ってきたフィルムが
もう半分くらいになってしまいました。
早く現像して、一緒に見たいです。
DAY4
屋久島に来て、発見したことがあります。
私が山に惹かれるのは
その頂を踏むことではなくて、
朝起きて、登山口まで行って、歩いて、下りて、
温泉に入ったり、そこに住んでいる猫と遊んだり、
その土地のものを食べたり飲んだり、
いつもと違う寝床で眠ったり。
そういう一切が好きなのだと思います。
今日はガイドさんを頼まずに
小さな集落を抜けて、海まで歩きました。
屋久島は、今も人が気づかない速度で
少しずつ隆起していると聞きました。
砂浜を歩いている瞬間も、
足元では小さな変化が起きていると思うと、
不思議な気分になります。
明日は、森へ行ってみようと思います。
日に日に知りたいことが増えてきて、
地図にはたくさん書き込みがしてあります。
もっと長く、ここにいられたらいいのに。
DAY5
今日、森で鹿に出会いました。
丹沢で見た鹿よりずっと小さくて、
こちらと目が合っても、ちっとも怖がらない。
誰もいない森では、彼らの足音や
何かを食べる音がはっきりと聞こえて、
自分も森の住人になったような気分になります。
ガイドさんが好きだという苔の森。
初夏だというのに、水がうんと冷たくて、
それでコーヒーを淹れてみたら、
いつもと同じ豆なのに、するすると飲める
軽やかな風味になりました。
気まぐれな雨に翻弄された日々だったけれど、
だからこそ、こんなに豊かな水がある。
屋久島の山で、雨を少し好きになりました。
雨上がりの森は、とても美しいのですよ。
ひとりで山を歩いていると
誰かにその風景を見せたり、
話したくなったりするのですね。
それも、この旅の発見のひとつです。
もうすぐ帰ります。
東京で会える日が、待ち遠しいです。
登場アイテムはこちらをご覧ください。
Photography / Kazumasa Harada
Styling / Natsuko Kaneko
Model / Yuka Kato(Jungle)
Edit & Text / Yuriko Kobayashi
Coordination / Takuya Tabira(TABIRA)