MIKA NISHINO_
FUYUKI SHIMAZU_
- PROFILE
- haru. / haru.
- アーティスト / エディター
- 1995年、宮城県生まれ。2015年、東京藝術大学に入学し、同年、雑誌「HIGH(er) magazine」を創刊。自身の編集視点を活かした企業タイアップやプロデュースを手がけ、2019年6月、アーティストのマネジメントやコンテンツ制作を行う会社「HUG」を設立し、多方面で活躍。
- PROFILE
- 島津冬樹 / FUYUKI SHIMAZU
- アーティスト
- 1987年生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店を経てアーティストに。「不要なものから大切なものへ」をコンセプトとし、2009年、世界各国で集めたダンボールのアップサイクルを開始。2018年には、映画『旅するダンボール』がSXSWで上映されるなど注目を集めている。
昨年、「#SHEMOVESMOUNTAINS」の一環として東京・原宿で開催された「#SHEMOVESMOUNTAINS EXHIBITION」。その中で、キャンペーンに登場した方々を含め、さまざまな分野で活躍する8組が登壇したトークショーが開催された。編集者として雑誌「HIGH(er) magazine」を主宰するほか、広告やファッションフィールドでも活躍するharu.と、映画『旅するダンボール』でも知られるアーティスト・島津冬樹によるセッション。ふたりが考える「次世代のものづくり」とは。
THE NORTH FACE(以下TNF) 今回お二人には、「次世代のものづくり」というテーマでお話をしていただきます。ものづくりに対するピュアな気持ちを持ちつつ、その活動が自然と社会的なアクションにもなっている印象のお二人です。では、haru.さん、島津さん、どうぞよろしくお願いします。
島津冬樹(以下島津) よろしくお願いします。僕は、「段ボールデザイナー」と言われることもありますが、自分では「段ボールピッカー」という肩書きを名乗ることが多いですね。世界各国を回って、街角にある段ボール拾い、それで財布やバッグなどをつくっています。僕の活動を映したドキュメンタリー映画の予告編があるので、そちらを見ていただくと分かりやすいかもしれません。
TNF 島津さんとノースフェイスの関わりとしては、店舗で余った靴箱をカードケースや財布にアップサイクルするワークショップを開催していただいたんですよね。では、続いてharu.さんです。
haru. よろしくお願いします。私は、今24歳なんですけど、大学に入ったとき、「HIGH(er) magazine(ハイアーマガジン)」というインディペンデントマガジンを始めて、最近は主に「HUG」という会社での代表をしています。私がZINEをつくっていることをノースフェイスの方が知ってくださっていて、原宿で歩いているとき急に話し掛けてくれたんです。
TNF すぐそこの交差点ですね。
haru. でしたね。そのときノースのリュックを背負ってたのもあって。それがきっかけで、去年冊子を一緒につくりましたね。そういう感じで、マガジンづくりをしていくうちに、いろんなお仕事にも広がっていき、今年の6月、アーティストのマネージメントとプロデュースなどを行う「HUG」という会社を立ち上げたんです。今は、その会社をベースにいろんな仲間たちと仕事をしています。これが、一番最初に作ったハイアーマガジンです。
島津 大学在学中につくられたんですか?
haru. そうです。大学に入ってすぐ、2015年ですね。島津さんとリンクするかなあ、と思う部分は、私たちも基本的に手づくりだったんですよ。撮影も学校のごみ捨て場でしたし、身の回りにあるものを活かしてものづくりをしていました。まったく新しいものを生み出すんじゃなくて、自分たちの日常のなかにおもしろいことは転がってないかな、というスタンスで。
TNF そこからさらにさかのぼって、大学以前には何かつくられていたんですか?
haru. 幼い頃から紙の読み物がとにかく好きで、徹夜して絵本を自作していました。誰かに憧れてとか、先生に教えられてということはなくて、自分が満たされる行為はそれしかないと直感的に分かっていて、毎日絵を描いていた感じ(笑)。そうしてひとりで黙々とやっていたんですが、高校時代にすこし変わったんです。ドイツの高校に通っていたのですが、言葉が100%自分のものじゃないのもあって、別の方法で自己表現ができるZINEをつくりはじめて。
TNF どんな内容ですか?
haru. 私が同級生ひとり一人にTシャツをデザインして、それを着てもらった姿を撮って冊子にまとめたんです。そこではじめて、ものづくりを通して人とつながれるんだということを知って。これは自分にとってめちゃめちゃ心強いツールになると実感して、日本に帰ってきたらハイアーを始めたっていう感じです。
TNF なるほど。島津さんは、幼いころから今の活動に繋がるようなことをされていましたか?
島津 いえ、段ボールとの出会いは大学時代なんですよ。ただ、子どもの頃から、ものづくりは好きでしたね。haru.さんの言う「人とつながる」という経験としては、僕はマジックの小道具をつくっていたときがあって。友達が見せてくれた付録かなにかのマジックキットにびっくりして、自分でつくりはじめたんです。
haru. なんでもつくっちゃう。
島津 つくれるじゃんと思って。みんなの反応も嬉しかったですね。中学校なんて、ほとんどマジックを見せに通っていた感じでした。でも、新学期はみんな興味を持ってくれても、4月が過ぎ、5月、6月ぐらいになると飽きられてしまう。マジックは儚いんです(笑)。でも、そういう経験で、コミュニケーションをするのは楽しいんだなっていうのを知れたし、今もマジックをしますが、喋りが下手な自分にとっては大切なツールですね。
TNF その後、美術系の大学に。
島津 そうですね。ただ、僕の入った学校は、多摩美術大学の情報デザインっていう学科で、紙とは一切関係のないところだったんです。
haru. 今の活動からすると意外ですね。
島津 はい。大学生時代、財布がボロボロになってしまっているのに、お金がどうしてもないときがあったんです。とりあえず、家にあった段ボールを引っ張り出して、それで財布をつくったのが最初で。ひとまず一ヶ月、と思って使い始めたものが、気が付いたら1年近く使っていた。長く使えたことにすごく驚いたんですよね。それで可能性を感じて、段ボールで財布をつくる活動をスタートして、かれこれ10年を迎えました。そのあいだは、財布づくりというよりも、段ボールそのものに興味を持つようになって、世界35カ国、段ボールと出会う旅に出たんです。段ボールを通して見えてくる経済だったり文化をひも解いていくのがおもしろくて、どんどん惹かれていきましたね。
haru. 段ボール通して見えてくる経済ってどういうことですか?
島津 段ボールは、ものを運ぶためのものなので、「物流」と深く関わっているんです。例えば、皆さんがよく食べるバナナが入っている箱は、だいたいフィリピンやエクアドルからやって来ています。そのバナナ箱がすごく好きで、フィリピンに行けば沢山あるんじゃないかと期待して行ってみたんです。でも、現地には段ボールが1つも落ちてなかった。なんだろうと思って調べていくと、現地では麻袋が使われていたんです。要は、段ボールはすごく高級なものというか、プランテーションから直接海外に出荷される品種にのみ使われるものだったんですね。国内では、麻袋は段ボールよりも回収しやすいし、いっぱい運べるし、ということでそっちを使う。そういう感じで、段ボールから、さまざまな国の物流が見えたのがすごくおもしろくて。
haru. おもしろいですね。私たちも、確かに身近なものを素材にして衣装をつくっていましたが、あくまでそれは「衣装」。日常着として着ることはありませんでした。今の話を聞くと、私たちがつくるものは、こういう世界があったらいいな、というところにとどまっていたんだなと。
島津 つくったものが、それで完成ではなく、実際に使うことができたという驚きは大きかったかもしれません。
haru. 私は、2号目のハイアーマガジンで、「サバイブシリーズ」っていう服のシリーズをつくったんです。その年は、熊本で大きな地震があったり、私は身近な人が亡くなってしまったりして、そんな状況のなかで、服っていう自分に一番近いもので「鎧」をつくろうって話になったんです。録音機が付いてたり、手紙とか、すぐ逃げられるようにパスポートケースが付いていたりする。
島津 美大生あるあるかもしれませんが、お金がないのもあって、身の回りにあるもので何かをつくろうっていう気概がありましたよね。
haru. そうかも。自分たちでできることを全部やろうっていう精神が基本でしたよね。そのときのモチベーションは今でも活きています。
島津 本当にそう思います。
TNF ものづくりのルーツや、そこから始まったコミュニケーションについてお話しいただきましたが、そんなご自身の発信から派生していった仕事についてお聞きしたいです。
haru. 最近やっている「HUG」という会社の仕事の内容は、一言で言いづらいんですよね。ありがたいことに、ひとつ一つが実験的な内容なんです。企業にとっても実験だし、私たちも、自分たちの伝えたいメッセージをどう形にしていくかは手探りなので、お互いに探り探りやる仕事が多い。今年は、企業とのコラボでサニタリーショーツを発売しました。私はこれまで、女性の体や性について、ハイアーマガジンでも、個人としても発言してきましたが、その問題意識の延長線上にあるプロジェクトでしたね。日本って、生理用品のCMが全部似たり寄ったりだったり、女性同士が生理について話したりする場面が、ドラマや映画、フィクションの世界で全く描かれないことに違和感がありました。でも、やっぱりそういうのを見たいっていう純粋な気持ちがあったんです。そこから、下着のプロモーションムービーを考えていきました。
TNF 島津さんは、自身の活動と仕事の関係はどういったものですか?
島津 僕は最初、段ボールの活動と、自分の生活のための仕事を分けていたんです。大学卒業後に務めた会社を独立してからは、デザインやイラストの仕事をしながら、二足のわらじでやっていました。結果的にすごくよかったことは、そこで、お金を別の仕事で生み出していたので、段ボールのコンセプトを守りながら活動ができたことです。やっぱり段ボールって、いきなりお金のことを考えるとなると、まず大量生産しなきゃいけない。お金に関しては難しいところもあったので、二足のわらじでやりながら、今、ようやく段ボールが注目もされてきた。例えば、最近は企業が「SDGs」関連の話を打ち出すことがあったりして、企業の研修、または、企業とのコラボレーションという形でお声をかけてもらうことが増えてきています。あとは、ワークショップですね。
TNF なるほど。SDGsという言葉も出ましたが、関わる人がだんだん増えていくなかで、環境問題とものづくりの関係についてはどう考えていますか?
haru. ものをつくることが私たちにとって本当にメリットがあるのか。そのことを個人も、企業も、真摯に考えなきゃいけないフェーズに来ている気がしています。ものづくりにはどうしても労力がかかりますよね。人の手もそうだし、地球に対して全くのノーダメージ、というのは難しいかもしれない。でも、私やチームのメンバーもいろいろなことを正直に受けとめて、自分たちが納得できる仕事がしたいと思っていて。「HUG」って、本当にいろんな子が所属しているんです。ウェブデザイナーもいるし、トランスジェンダーのモデルもいるし、什器をつくる子もいる。いろんなクリエイターの子たちが、それぞれの分野で、自分たちの未来にとって本質的な取り組みに携わりたいと思っているし、そういった想いを共有できていると思います。私たちは、会社を立ち上げたとき、自分たちを「社会彫刻集団」と呼んでいました。「社会彫刻」というのは、ヨーゼフ・ボイスというドイツのアーティストの言葉で、彼がその言葉に込めた「私たちはそれぞれがアーティストである」「社会を変える力はひとり一人が持っている」という思想に強くシンパシーを感じているんです。自分たちの取り組みが、社会がより住みやすい場所になる動きになると思っているし、そのために何ができるだろう? っていうのは、最近よく話しますね。
島津 つくりたいものがあって、そのうえで社会や環境への影響を考えようっていうとき、
ジレンマを感じることはありませんか?
haru. もちろんありますよ。私は紙を使って出版してるので、これだけ紙を使って印刷してメッセージを伝えるのが合ってるのかな、最適な方法なのかなって思ったりもします。でもやっぱり、自分はものを通しての経験や、読みものによるインプットの力を信じているので、どうしてもそのやり方を選んでしまう。島津さんは、ものづくりをするときに、自分がこだわっているポイントってありますか?
島津 自分のテーマとしては、「使えるもの」っていうのが大きいですね。自作したものを使うのはすごく楽しいっていうのは、僕の作品やワークショップを通じて知ってもらいたいことです。身の回りにあるものを工夫して作り変えてみることを楽しむ気持ちさえ共有できれば、ものを捨てる前に、別の用途で使えるんじゃないか、新しい使い道があるんじゃないかと想像してもらえると思うんです。
TNF 島津さんのワークショップに参加して以来、いろんなところで段ボールに目がいってしまうんですよね。スーパーの裏をわざわざ覗きに行ったり(笑)。
haru. それってすごいことですよね。ものづくりの良さって、他の人の視点で世界を見れることだと思います。自分一人だと気付かなかったことに意識が向くというか。
島津 そうですね。僕は財布づくりのテクニックや、出来上がった財布をアート作品として広めていくというよりは、自分の「不要なものから大切なものへ」というコンセプトや、その視点みたいなものを広げていくことが第一なのかなと思っています。
TNF お二人のお話からはっきりとしてきた共通点として、身の回りのものを使うというのがあると感じます。今後、新しい事業やプロジェクトを進めるうえでも、そういうことは何か意識していますか?
haru. そうですね。自分たちの感覚からあまり離れないように、ということは意識しているかもしれません。自分たちからかけ離れているトピックを扱ったり、商品のプロモーションをしていくことは、今後も恐らくないだろうと思います。
島津 僕もそうですね。段ボールには引き続き可能性を感じているので、さまざまな規模の展開ができればと思っていますが、大切にしているコンセプトやメッセージを伝えていくというのは変わらない部分ですね。
haru. めちゃめちゃ手を動かしてものをつくる島津さんとのお話、とても楽しい時間が過ごせました。実際に自分の手を動かしてするような制作が最近できていなかったので、うずうずしてきた(笑)。ワークショップも行ってみたいです。
島津 ぜひ! つくるって、誰にでもできることなんです。帰ったら、家にあるものでなにかつくってみようかなと考えるきっかけになれば嬉しいですね。