MIKA NISHINO_
KAZUMI HAYASHI_
- PROFILE
- 根道美奈 / MINA NEMICHI
- コミュニケーション コンサルタント
- 1998年よりGUCCIで経験を積み、2006年、コロンビアビジネススクールにてMBA取得のためNYに渡米。帰国後2009年にGUCCIのマーケティング&コミュニケーションディレクターに着任。2016年からLOUIS VUITTONのマーケティング&コミュニケーションヴァイスプレジデントを務め、現在は自身の会社「オープンドアー」を主宰。
- PROFILE
- 林香寿美 / KAZUMI HAYASHI
- 編集者
- 東京都出身。1999年にNYへと渡り、以降8年間、スタイリスト及びフォトグラファーとして活動。帰国後、インディペンデントファッションカルチャー雑誌『Libertin DUNE』の編集長のほか、現在は、UKのファッション媒体『i-D』の日本およびアジアのディレクターを務める。
昨年、「#SHEMOVESMOUNTAINS」の一環として東京・原宿で開催された「#SHEMOVESMOUNTAINS EXHIBITION」。その中で、キャンペーンに登場した方々を含め、さまざまな分野で活躍する8組が登壇したトークショーが開催された。コニュニケーション コンサルタント・根道美奈と編集者・林香寿美、ともにファッションフィールドで活躍する二人に聞く「女性と仕事の現在」。
THE NORTH FACE(以下TNF) インターナショナルなお仕事をされているお二人ですが、まずはじめに、現在のお仕事や働き方について伺えますでしょうか。
林香寿美(以下林) 私は、40年以上続くイギリスのファッションメディア『i-D』のアジアの編集長をしています。日本をはじめ、アジアのコンテンツのクオリティー管理と、セールスティームと連携した仕事が主な仕事です。i-Dブランドの経験が長いので、それをアジアに広めてゆくことがこれからのミッションです。
根道美奈(以下根道) 私は2019年10月をもってルイ・ヴィトンを退職いたしまして、新たに自分で会社を作ってPRやコミュニケーション戦略、ブランディングのコンサルティングなどを行っています。
TNF お二人はどのようにキャリアをスタートさせたのでしょう? その中で、下積み時代をはじめ特に大変だった時期はありましたか?
林 私はいろいろなキャリアを経験してきたタイプなんですね。最初に働いたのは、ファッションショーのプロデュースをやっている制作会社で、キャスティングを担当していました。小さなカンパニーだったので、部署に自分一人しかいないから、入ったばかりなのに責任は自分で持てって言われて。上司に教えてもらうというより、自分のやり方を模索しながらそれを試す期間でした。その後、ニューヨークに行ってフリーランスのスタイリストになりました。だから、大きなチームの一員として働くっていうタイプのキャリアは積んできていなくて、今の『i-D』が、自分の経験したチームとしては一番大きいですね。必要になってくる仕事も初めてのことが多いので、そういう意味では若いときよりも今のほうが下積みという意識が強いかもしれません。
根道 プロフィールには書かなかったんですが、私は最初テレビ局に勤めていたんです。働いていた3年間は非常に体育会な感じでして、会社のパソコンが落ちる夜中1時まで仕事をしたら、じゃあ飲みに行くぞという流れで絶対に断れない(笑)。へろへろになりつつ、どうにか3年間やりました。比較的大きな会社でしたので、そのメリットとしては、ひとつ上の先輩がひとつ下の人に教えるっていう仕組みがあったことでしょうかね。
林 テレビ局からファッション業界へ転身されたのには、何かきっかけがあったんですか?
根道 正直なところ、なんの考えもないままテレビ局を辞めてしまったんです。とりあえず辞めるって。それから1年ぐらいは、英語ができたので通訳をしたりして何となくやっていました。そんなとき、たまたま仲のいい友達がファッション業界で仕事をしていて、GUCCIの求人を教えてくれました。たまたまというか、ラッキーだったとしか言いようがないですね。
TNF 専門的な知識は入社してはじめて学ばれたのでしょうか?
根道 そうです。私が最初GUCCIに入った頃、上司だった方がすぐにお辞めになられて、1年間ぐらいは直属の上司がいない状態でした。人事の入れ替えもあった時期で、その年に店舗からPRに来た方と私の、ぴよぴよの2人だけになってしまった。なので、雑誌の方たちに甘えさせてもらって教えてもらいながら、経験を積んでいくしかありませんでした。大変でしたが、今思えば、2人しかいなかったことでミラノのショーに行かせていただけたり、いろいろな有難い経験をさせてもらえたと思います。
TNF お二人とも入社してすぐに責任を負う立場になられた分、学びも大きそうですね。
根道 そうですね。確かに経験は積めました。でも、その後に上司の方が入られて、その存在は大きかったですね。私にとってのロールモデルみたいな人です。本当に大事なことというか、仕事の本質は、その方との関わりのなかで見えてきたところがあります。なによりも学んだのは、デザイナーの立場を守る姿勢。私はその頃、まあこれくらいは仕方がないかな、みたいに思っていたことを、上司はものすごい勢いで怒るんです。それほど強いこだわりがないとデザイナーやブランドは守れないんだな、と感じさせられました。
林 私にも今になってそういう方ができました。理解が深まると、時間をかけずとも、よりよいものが作れる。一緒に働いてる下の子たちの時間も余分に割かなくて済みますし、結果として、チームとして稼働する時間が短縮されて濃いものにできる。ただ最近は、その本質的な部分も含めて、下の子たちにパスしていかなければいけない部分もあるんだな、と思うことも多いです。
TNF 最近、フィンランドで34歳の女性が首相に就任したりと、女性のリーダーが増えてきているかと思います。お二人は、自分がリーダーシップを取られる立場になって変わったことはありましたか?
根道 チームを任せていただく立場になってからは、自分が何をどれだけできるのかに加えて、どうしたらチームのみんなが力を発揮できるか、という視点が得られましたね。私の下にも各チームのマネージャーなど、指揮をとる立場の方がいます。いろんな個性や立場の方たちがいて、指揮の取り方も様々です。リーダーシップって、一筋縄ではいかないです。
林 本当にそうですね。私は、自分が上の立場でいるにもかかわらず、引き出してあげるとか、そういったことがなかなかうまくできなくて。どうやってやったらうまくできるのか、どういうコミュニケーションを取ることがベターなのか、それぞれの能力がうまく発揮されるために自分がどうしたらいいか、今まさに課題としているところです。
TNF お二人とも、国内のスタッフだけでなく、海外チームの方々とやりとりなさっているので、余計にコミュニケーションが難しそうですね。お二人から見て、これは日本特有だなと思うことはありますか?
林 日本人は、事前にプロジェクトのディティールまでを知っておき、全てが手はずよく進まないと嫌なんだけれども、海外のスタッフには、コンセプトさえあればディテールは後でいい、とよく言われました。
TNF すごく興味深いです。
林 海外の考え方は、コンセプトさえあれば、細かいことは分業できるし次の段階、というのものだったんです。後の詳細に関しては、その時点では考えない。でも、日本のチームの多くの場合、コンセプトがあったとしたら、これとこれはどうなってるんですか、あれはどうしますか、って次々に質問が出てくる。そこを確認しておきたい。その違いは大きいですね。
TNF プロジェクトを具体化するタイミングが違うと。でもそれは、国際間で一緒に進めていくプロジェクトでは大きなズレが生まれてしまいますよね。
林 そうなんです。全く違うなって思いましたね。こっちはおおざっぱすぎるように思っているけれど、あちらは、そんな細かいことを検討していたら進まないじゃんって思っている。ズレていると、より深いコミュニケーションが必要になりますよね。最初は、分かっている風でそのまま進めようと思っていたんですけど、駄目だこれ、と思って。本当に分からないし、「こっちはそういう文化じゃないんだ」って正直に伝えて、そうしたら、向こうからも質問が来るようになって目線を合わせていけました。日本は完璧主義の人が多いのかもしれません。あるプロジェクトが企画されたときには、仕事量だったり予算がざっくりとすぐ計算してしまえるじゃないですか。そうすると、やるまえから、「ちょっと無理そうだね」みたいなになっちゃう。でも彼らは、実現させたいならクライアント見つけてくればいいとか、ポジティブに、段階的に進めていく方法を考えていく。
根道 そうですよね。文化の違いを実感する機会はたくさんあって、メールをひとつ取ってもコミュニケーションの仕方が違う。細かいことなんですけど、例えば質問をすると、日本人だったら、とりあえず読んだよ、と返信が来る。あなたの質問は認識した、だけど今は答えられない、みたいなメールをくれるじゃないですか。でも、フランスの方からはそういったお返事が来ないことが多くて。
林 私もそれ、一時期悩みました。一言言ってくれればいいのに!って。本当に読んでなかったらどうするんだろうって思っちゃうし。
根道 なんというか、曖昧なことを文字にして残したくないっていう気質がすごくあるみたいで。何かふわっとしている状態のとき、メールではなく、ちょっと電話していい? て必ず言われる感じ。
TNF ファッションメディアやPRのお仕事は、男女によっての向き不向きはあったりはするんでしょうか? 例えば、今回のキャンペーンに出演いただいた女性のアスリートの方は、フィジカル面での性差を前提に、自己ベストを更新していく努力をしているというようなお話があったりしたのですが。
林 ファッション業界での仕事は、男女というよりも個人によりますね。
根道 そうですね。個人によっての得意不得意だと思いますね。男性か女性か、というところはあんまり感じたことがないです。今は、男性的な女性もいれば、女性的な男性もいらっしゃるし、仕事は個人個人の能力によるだろうなとシンプルに感じつつも、あえて女性らしさばかりを持ち上げる流れも世の中的にはあるような気もします。
林 私たちのファッション業界は、そもそも女性が働いやすい環境ではある。なので「個人」というところで話が済むのですが、それはラッキーで、そうではない環境もあるかもしれません。
根道 そうですね。チームの男女比を半々にするとか、そういったアプローチが必要な場合もあるのでしょう。
林 「女性らしさ」が持ち上げられることに違和感を持つ方もいれば、男らしさを求められるのが嫌だという男性も普通にいますしね。雄々しさだけが男性じゃないし、そうした既存の「らしさ」に対してアンチをしている人たちもいる。『i-D』では、そういうスタンスにスポットライトを当てたいと思っています。
TNF そういう点でいうと、2018年の夏の『i-D』は、「フィメール・ゲイズ(女性のまなざし)」をテーマに、クリエイター職につく女性たち147名によって作られた雑誌でした。こちらについてご紹介いただけますでしょうか。
林 まず、フィメール・ゲイズ号のマガジンは、ロンドンのホリーという当時の女性の編集長を筆頭にイギリスで制作されました。女性の活動をサポートし、エンパワーメントするっていうよりも、そのクリエイティビティを「ただ祝福しよう」というコンセプトで始まっています。そのコンセプトを引き継ぎながら日本でも作ったんです。
根道 拝見させていただいて、エンパワーメントではなくて祝福を、というところがすごくいいなと思いました。
林 「女性とは」「女性のまなざしとは」ということの定義をひとつに限定しませんでした。こちら側で決めたメッセージを投げ掛けるというよりは、まずは読者の方にさまざまに考えを巡らせてもらうきっかけを、女性のクリエイターとともに紹介できれば、という思いでしたね。
根道 がんばれがんばれ、ではなく、私はこう思います、ということを淡々と紹介するスタンスがすごく素敵で。
林 この号は、紹介いただいたように丸々一冊を女性のクリエイターたちと一緒に作る、ということをしましたが、雑誌作りの過程で、たとえばフォトグラファーを探したとき、女性の人って、数として圧倒的に少ないんだな、ということは感じましたね。フォトグラファーに限らず、一冊の雑誌を成立させるだけのクリエイターを集めるのがすごく大変だったことには、かなり考えさせられました。
TNF 制作のプロセスで印象深い出来事などはありましたか?
林 トータル的な話になるのですが、やるならこだわりを持ってやりたいと思ってくださったクリエイターさんが多かったからこそ、これまでの号を作っているときにはされなかった質問をされる機会が多かったですね。説明を求められて、互いに意見を出して、妥協なしでアプローチを決めていく場面がたくさんありました。
TNF まだまだお話をお聞きしたいのですが、最後に、ぜひお二人からアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。
林 そのときにできることを一生懸命やる、っていうことが大切だと私は思っています。基本的には、毎日を一生懸命生きていくことしか人間にはできない。寝なきゃいけないし、食べなきゃいけないし、仕事もしなきゃいけないし、子どもができれば、生まれて来た者に対しての責任も持たなきゃいけない。そういう限られた時間のなかで、やりたいことを全部かなえられるかっていうと、そうではないと思います。ただ、そのときにできることを、できる限りやる。そういう考え方がいいんじゃないかなっていうのはいつも思っていますね。
根道 私も同じかなと思います。先ほどお話させていただいたように、キャリアとしては本当に偶然に恵まれたというか、こうなることを思い描いてここまでやって来たというよりは、たまたまGUCCIに入れていただけて、そこから、次、次っていうふうに、そのつど考えて選択してきたことの結果が今につながっているので。
TNF 目の前にあることに対して責任を持ってやっていく、その時々でできることを果たしていくことが重要なんですね。
林 今、自分が10年前に面白いと思っていたことは、同じく面白いと思います。でも、それができるかといえば、できない。なぜかと言うと、家に帰らなきゃいけないし、仕事では責任のある立場にいる。そうしたことを考えると、面白いとは感じるけれど、それはもう終わったんだ、っていう感覚がある。後ろ髪を引かれながらも確信的にそう思いますね。これからも、どんどんできないことが増えて、その一方で、できることだって増えてくる。できないことはできないので、できることに集中すればいいよ、って言いたいですね。
TNF ありがとうございます。今回お話をお聞きして、お二人とも仕事への愛がすごくあると感じました。お仕事は好きですか?
根道 仕事は好きですね。たまたま巡り合った仕事ではあるんですけれども、PRの仕事も好きですし、ファッションは人に自信を与えられたり、なによりも楽しいものなので、いい仕事に巡り合えたなと思っています。
林 働くことは楽しいと思うし、自分が納得してやっていることに対して認められたい。それが達成できたら、人間の営みとして幸せなんじゃないかなっていうように思います。