ARTIST
KOTAKE_
CLIMBER
日本ではまだ挑戦者が少ない
ハードなアイスクライミングで、
世界の壁を超えていく。
- PROFILE
- 小武芽生 / MEI KOTAKE
- プロクライマー
- 1997年北海道札幌市生まれ。小学5年からクライミングをはじめ、高校2年時に米フロリダに留学。その後、大学在籍時に栄養士とフードスペシャリストの資格を取得し、現職では、栄養学の知識を活かしたレシピ開発などを行いながら、クライマーとしてのキャリアを積む。リード/スピードクライミング、ボルダリングに加えて、近年はアイスクライミングにも挑戦。日本代表選手として国内外の大会で挑戦を続けている。
クライミングは、“身体を使うチェス”
生まれ持った身体能力だけで
順位が決まらないから、おもしろい。
幼い頃からいろいろなスポーツができたそうですが、なぜクライミングに熱中するようになったのでしょう?
例えば、100m走や水泳などのスポーツは、ある程度決まった型(フォーム)があって、それをベースにどうすればより早く走れるのか、泳げるのかに挑んでいくスポーツだと思うんです。けれど、クライミングには決まったフォームがなくて、とにかく自由。上に登れさえすれば、どんな動きでも、登り方をしてもいい。両親や友達からも言われますが、私自身、自由奔放な性格だと認識しているので、そんなクライミングの自由さが性格とフィットしていたのかもしれません。唯一クライミングだけが上に登っていく上に登るスポーツっていうのもおもしろいなあと。
確かに、そうかもしれませんね。日常生活でも上に登るってあまりないですよね。
階段を登るぐらいですよね? 木登りに近いような、非日常的なところも私の性格にしっくりきたんだと思います。
大会では、海外選手と競うことも多いと思いますが、体格差を不利に感じたことはないですか?
そこもクライミングのおもしろさだと思います。クライミング競技って、日本チームが圧倒的に強いんです。それは単に身体が大きいとか筋肉があるっていう生まれ持った身体能力だけで順位が決まらない競技だから。もちろん多少は関係してきますが、それよりも大事なのが柔軟さや筋肉量、身長などのバランス。そのバランスによって壁の登り方も違ってきます。クライミングは、“身体を使うチェス”と言われていますが、日本人選手はその考えるという部分で長けているところがあると思います。
高校2年生のときにはアメリカへ留学をされていましたね。
クライミングで海外遠征に行く度に、もっと他国の選手と話してみたいという気持ちが強くなって、それで留学を決めました。ただ、留学中ははじめて運動不足という状態を経験するほどクライミングから離れていました。留学先のフロリダ州は、西海岸とは違って地形もなだらかでクライミングできるような岩が少なかったこともあって、代わりにソフトボールやウェイトリフィティング、タグラグビーなどをしていました。言語や文化の違いもそうですが、アメリカの食生活を体験できたのはいい経験でしたね。
栄養士とフードスペシャリストの資格を取得されていますが、どんな理由からでしょう?
大学で栄養学を専攻したいと思ったのも、アメリカ留学が大きくて。実は、留学中、冷凍食品やファストフードばかりを食べていて、アレルギーの症状がひどくなってしまったことがあったんです。それが普段口にするものについてちゃんと知りたいと思うようになったきっかけになりました。それと、もともと食べることが大好きなので(笑)。アスリートとして、食べた物がどんな風に身体に取り入れられるのかに興味があったし、それで強い選手になれるのであれば勉強したいなと。実際に栄養学を学んだことで、食事がどんなプロセスを経て血になったり、筋肉になるのかを理解することができたんです。知ることで、どこか気持ち的にスッキリして。ただやみくもに身体に良さそうなものを食べるよりも、自分が好きなものをストレスなく食べることができるようになりました。
1度決めたら、
それでよかったんだと思えるようにやりきる。
自分が選んだ道に誇りを持てるように。
小学5年から現在まで11年。クライミングに飽きたことはないですか?
壁を登ることに飽きたことはないです。最近アイスクライミングをはじめたこともあって、久しぶりにボルダリングをやると改めて楽しいなと思いますし、リードクライミングもそう。クライミングのなかにも種類があって、それぞれまた違った魅力があるんです。
アイスクライミングをはじめた理由を教えてください。
北海道出身ということもあって身近にアイスクライマーがいたり、それに雪も大好きなので、ずっと興味はありました。ただ、新しいことをはじめるなら、今のフリークライミングでちゃんと結果を残してから、と思っていたんです。ようやく最近になってチャレンジしてみてもいいかなと思えるようになったんですが、1年中、いろいろな壁を登っていられるのですごく幸せですね。
チャレンジを続けますね。リードやボルダリングをやりつつ、 アイスクライマーとしても活躍する選手は珍しいですよね。
ただ自由にやっているだけなんですけどね。でも、これも私の性格なのですが、自分の中で1度決めたことは、のちに振り返ってもそれで良かったんだと思えるようにやりきりたいんです。後悔したくないし、自分が選んだ道に誇りを持ちたいと思っていて。実際、クライミングをはじめたことで、確実に私自身の視野も世界も広がりました。クライミングをしてなかったらおそらく地元に住んでいただろうし。きっと英語を勉強しようとも思わなかったはずです。
そんな小武さんがかっこいいと思う女性は?
なんでも自分の力でできる人です。クライマーってロープなどの重たい道具を持って山を登ったりと力仕事が多く、まだまだ女性よりも男性の競技者の方が多いんです。でも、実際女性のクライマーでも身の回りのことをすべて自分でされている方がいらっしゃって、「あぁ〜かっこいいな!」と思います。
ロールモデルになっているような人はいますか?
萩原亜咲さんという10歳年上の元日本代表の選手です。現在は大会に出場しつつ、札幌市で旦那さんと一緒にクライミングジムを運営されていて、ユース選手への指導も行っている方です。亜咲さん自身がワールドカップなどの大舞台で学んだ経験を生かして、指導や引率など裏方としてもクライミングに携わっている姿がかっこいいなと思うのと、本当にクライミングが好きなんだなと。一緒に登るのはもちろん、話しをしているだけでも勉強になるし、何より楽しい。基本的に年末年始は北海道に帰るようにしているのですが、多分家にいるよりも亜咲さんのジムにいる時間の方が長いかも(笑)。
クライマーとして、今後どうありたいと思いますか?
競技としてのコンペティションだけではなくて、私が個人的に最高! と思う岩にもっともっと出会いたいですし、それをみなさんに共有してクライミングを楽しむ人が増えるといいなと思っています。
- 写真・動画 / 鈴木親
- インタビュー / 川島拓人 (kontakt)