茶畑
と
里山と
「東海自然歩道という名前はこれまで知らなかったんですけど、最近、実家のある滋賀から京都をつなぐいいトレイルがあることを友だちから聞いていて、地図を広げて調べていたんですよ。そうしたら、それが東海自然歩道だったということがわかったんです」
そう教えてくれたモデルのmiuさんは、仕事が休みの時には頻繁に山を歩いているそうだ。幼い頃から両親の影響でハイキングに親しんでいたが、本格的に山に向かうようになったのはコロナ禍がきっかけだった。
「実家にいた時に、なんだか時間が長く感じて、地に足がついてない感じもあったんです。それを拭うために1人で山を歩いてみたら、すごくいい時間を過ごせたんですよね」
そんなmiuさんを案内してくれたのは、長距離ハイカーの鈴木栄治さん。所属するトレイルブレイズハイキング研究所が2023年に東海自然歩道を全線調査をした際には、東の起点・東京の高尾山から愛知・三河大野までの約400kmのセクションを担当した。
今回、鈴木さんが選んだのは静岡県の藤枝市にある蔵田バス停から島田市の上河内集落までの約11kmのルート。鈴木さん曰く、東海自然歩道らしさと静岡らしさが詰まったルートなのだそう。
歩き始めてすぐに現れる茶畑の風景を抜けて、高音山(標高871m)を登る。実は、今回のセクションの山場はこの最初の高音山ハイク。かなりの急勾配を登っていくことになるのだ。
高音山山頂以降はアップダウンをしながら低山ハイクを繰り返していくことになる。ちょうどキノコの季節ということがあり、歩くたびにトレイル上に姿を現すキノコが目を楽しませてくれた。いつでも最初に見つけるのはmiuさん。
「山に登るようになってから小さいものがよく見えるようになったし、動体視力がすごく良くなった気がします。登山とかハイキングって、車では見落としてしまうような自然の景色の移ろいなどを感じられることが素敵ですよね。自分の足で歩いているから、景色の見方とかも自分にとって良いように選択することができたりもするし、自然からは学ぶことが多いんです。『自分を信じて行きたい方に行く』ということを大切にしているのですが、それは自然の中で学んだことなんです」
東海自然歩道の
モデルになった
アパラチアン・
トレイルとの
類似点
しばらく続いた山の中を抜けると、再び、広々とした茶畑の風景が待っていた。山の斜面に沿って整備された茶畑の麓には集落の姿が見えてくる。
「この美しい茶畑は静岡ならではの景色ですよね。そして、里山を越えると集落があって、また里山と茶畑がある、という繰り返しが静岡ルートの特徴のひとつなのですが、この自然と人里との関係性が、東海自然歩道がモデルにしたアメリカのアパラチアン・トレイルにとてもよく似ている点なんです。大きなピークや、富士山のような大絶景があるわけでもない比較的地味なルートではあるのですが、東海自然歩道らしさを感じられるルートだと思います」
と鈴木さんが言うように、確かに派手さはないがハイキングの楽しさと厳しさ、自然と人の営み、そのどちらも感じられるようなルート構成を楽しむことができる。
「景色ももちろんですけど、音を楽しんで歩くことができました。山の中にいると自然の音がすごいクリアに耳に入ってくる感覚が好きなんです。葉っぱが揺れる音とか、遠くで聞こえる川の流れの音とか、鳥の囀りとか、そんな美しい音を楽しむ瞬間がたくさんありました。東海自然歩道は50年前に整備されたそうですが、それぞれの時代の人が同じようにフィジカルで自然を楽しんで、時を超えて共有できるなんてめちゃめちゃ素敵だなと思います。長く歩く旅にも興味が湧いてきました」
そうmiuさんが話してくれたように、多くの人の手によって50年もの間守り続けられてきた東海自然歩道。次の50年、さらに先の未来の人たちが、現在の私たちと同じにように、この長距離自然歩道を楽しむ姿が見られることを願いたい。
Instagram:@_miugram_